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「〜〜〜。」
「? 〜〜〜っていいのかよ。」
活劇ものを撮っているということもあっての、それは広いスタジオを使っており。
大人数が入り乱れての乱闘シーンなどを展開させるための
講堂や体育館くらいはありそうな広いフロアもあれば、
様々な小道具を収納している倉庫やセットを組み立てもする収納庫。
顔合わせや何やの打ち合わせに使う小さめの会議室や、
役者がくつろぐ談話用のフロアや食堂に、個室代わりの楽屋などなど、
大小さまざまな部屋を抱えている棟もいくつかあって。
そんな中、ちょっと外れに位置する使われていない控え室にて、
外国語が時折混ざるので多少誰ぞに聞かれても判るまいとでも思うのか、
時折感情的な…ひそめられない尖った声が漏れており。
英語じゃなきゃあ大丈夫と油断しまくっているようだが、
“こちとらフランス語やラテン語の歌劇なんぞにも接してるんだがなぁ。”
との苦笑が絶えない面々が、顔を見合わせると…さあいよいよとの行動に出る。
「あ、こんなところにいらした。」
偶然通りかかったようなあっけらかんとした様子で
ノックも無ければ応答も待たずというお行儀の悪さでドアが開き、
はっとして思わずその身がすくんだ、奥まったところに立っていた彼へと声をかけ、
屈託ない様子で駆け寄った少年なのへ、
「ちっ。」
忌々しいと言わんばかり、険ばかり目立つ顔をゆがませ、
舌打ちして出てゆく男を引き留めるでもなく黙って見送った彼だったが。
姿が見えなくなった途端に、いかにもあかんべえをしたそうな顔になった敦と、
一応は同行していた芥川のやはり辛辣そうな表情を
やや元気も覇気も無さげなお顔で見やったそのまま、
「見かねて助けてくれたんだね。ありがとう。」
覇気のないまま謝辞を述べたシグマさんであり。
それへは表情も改めて振り返ってきた芥川や、案じるように見上げてきた敦なのへ、
ゆるゆるとかぶりを振ってみせる。
「けれど、君は…君らは関わらない方がいい。
あいつはいろんなところを渡り歩いて悪さし続けているクズだから、
顔を覚えられても剣呑だろう。」
そうと言って躱そうとするのは、
やはり彼らを何かから庇ってくれようとしてのことなようで。
だがだが、
そんなこんなから素っ気ない態度になったのはという素因も把握済みだからだろう、
「大丈夫ですよ。」
ムキにもならず怯みもせず、にっこり笑った敦に続き、
「そうそう、こんな小者へ案じる必要なんてない。」
そんな声が室内へと割り込んだ。
不意打ちもいいところで、ギョッとしたシグマだったが、
閉じられたはずのドアがそれは滑らかに再び開いて、
「え?」
先程、いかにも忌々しげに尖った表情を隠しもせず退出した人物が、押し戻されての舞い戻ってきており。
退出したはずの男の肩をがっちりとホールドして連れ戻したのが中也と太宰。
特に乱暴な扱いではないながら、コツをようようご存じか、
もがけば手首でも締まるらしくて苦々しい顔になっており。
当地の芸能人としてダントツ人気のいい男らが、
一体どんな心得があるものか
どこか札付きらしき怪しい男を拘束してきて、
とんと部屋の中へ突き飛ばすと、逃げちゃあダメだよとにやにやと笑いかけ、
『海外の現場を渡り歩いているとかどうとか、大きいバックがいると匂わせているが、
実のところ、大したメンツはいないよな。』
『ああ。』
先程まで彼が駆使していたフランス語にての会話を持ち掛ける。
誰かが通りすがってもこれならなるほど何話しているものか判らないよねぇとにやにや笑いつつで、
ちょっとほどそこまで堪能ではないらしき敦にはスマホでの翻訳を通すことにして。
“……?”
一体何が起きているものか、当事者でありながら理解が及ばないらしい異邦人の彼へ、
敦が励ますように傍らへと添うている。
見た目は嫋やかで麗しいがそれだけでなく、
冷徹であろうとすることもできる泰然とした芯を持ち、頼もしいまでに強か。
仲間や身内がいない場であれ、毅然と顔を上げられる強靭さを持つのは、
精神的にしっかと独り立ちしている人物ならではで。
そうでありながら、
懐に入れた相手へは惜しみなく優しくあれる誠実さも持ち合わす彼であり。
敦が自身の“兄上”と同じだと、その器を把握したのも間違ってなかったし、
なればこその…ここ数日見せていた彼の“素っ気なさ”の原因というのが、
実はこちらを守りたいがためだったというのも把握済み。
『スタジオ内に入り込むための融通も彼に付けさせてたらしいが、
それだけでとどまらず、他の俳優陣へもちょっかい出すぞって格好で脅しをかけたんだって?
本末転倒じゃあないの?それ。』
今話題の美形俳優ということで単価が上がったか、
そもそも見目麗しいところに目を付けられていた、
シグマ氏が元いた事務所というか所属先からの追手だったようで。
コンパニオンだか同伴者だか、
これまでも微妙にきな臭いレセプションなどへ連れ込まれたりしていたらしかったのが、
もっと闇の深そうな集まりにも出てもらいたいと、
過去にも公言しにくい集まりに同座していたことをばらされたくなきゃあ言いなりになれと
よからぬところへの帯同勧誘を受けており。
逆らうのなら親しくなりかけている子らを誘い出してやろうかなどと言い出すものだから、
相談する人もなく、窮地に立ってたらしい彼だったものの、
その程度のいざこざならば、自分たちにはさして重大な厄介でもなしと、
ほんの数日で全貌をつかめていた太宰や中也であったようで。
思いもよらない事態の急変にか、落ち着きなく周囲を見まわす男へ、
逃げ道を塞ぐようにドアの前へ凭れ立つ中也を背景に、
太宰が鷹揚そうな微笑を見せて、
『なに、どこかへ届け出ようとかどうとか、話を荒立てるつもりはないよ。』
本来、というか、そういう型通りの始末で追い払うとする幕切れを、
脅し半分にでも持ちださぬ彼らなのへは、
破落戸男のみならず、シグマもまた意外そうな顔になる。
ここは醜聞が一番おっかない世界で、それはいかようにも広げたり演出したりできるもの。
イマドキならばSNSなどというギミックを使えばあっという間に嘘でも広まるし、
そうやって燃え立った炎上を最短で抑え込むのはどれほどの大物でも難しいといえ。
そんな不確定な噂や醜聞に対抗できるのは、
型通りながらもっとも正当で判りやすい公的な訴訟ではなかろうかと感じたらしかったが、
『いざこざ起こしてせっかく人気で話題のドラマに影響が出ても剣呑だしねぇ。』
それは朗らかに笑ってそうと言い放ったまま、
ふっと…それこそ不意に陽が陰ったかのような自然な流れで
その表情が暗く冴えた太宰が言い放ったのが、
『でも判ってた? この撮影自体へもしも何かしら支障が出たらば、
スポンサーも山ほどついてる企画だけに、
莫大な損害賠償を求められるのは君らなんだってこと。』
『……っ!』
個人を相手に脅し透かしというのとはわけが違うよ、
主犯はキミかな?他に首謀者がいるような、もうちょっと規模が大きめのゆすりなのかな?
『う…。』
そんなおっかない顔はなしだって。
こういうこと、手慣れてるというか話は理解できる筋の人なんでしょう?
むしろ、そんな君をこそとある伝手へ紹介してあげようと思ってね。
『何なら私のつてで同性同士のたしなみがお好きな顔触れのサロンがあるから、
そこへとご招待して差し上げよう。』
『え?』
意外な話の流れへ、これまでは脅迫を仕掛けてきた側なのだろう破落戸男が呆気にとられる。
ポリコレや何やで話題にもなっていて、
近年開放的になりつつあるなんて思われてるよな同性同士の交際も、
実のところはさほど汎化進化しているわけじゃあない。
同性にもてあそばれただなんて、
某宗教圏では訴え出ることさえ屈辱の極みだという場合もあっての、泣き寝入りが多いらしいし、
そしてそこへと付け込むのが。こやつの肝だったらしいけど…。
(※このお話はあくまでもフィクションですので…。)
『日本には随分と昔っから“衆道”というたしなみもあるし、
高貴な家ほどそういう筋の付き合いもあるらしいよ?
決めつけるよな発言は慎んだ方がいいながら、
芸能の関係でも間違いがないよう男性しか立てない舞台もあったほどだし』
……と。
冴えた美貌も無表情になると迫力がなお増す、
確か有名な梨園と縁のあるという芥川が深々と頷いた傍ら。
どこまで真剣だか けろっとそんなことを口にしたほうの彼は、
目元を覆うよなくせっ毛の蓬髪が妙に色香があってイケメンだと人気の男優氏で。
小さな携帯型の通話機でどこかへ連絡した途端、ほぼ間もなくという間合いでノックがし、
随分と高級そうな礼服姿の、姿勢のいい青年が現れる。
姿勢をただした折、くるぶし同士を叩きつけたよな印象さえあったほどの切れた身ごなしで、
ある意味、隙なく鍛え抜かれた身なのが察せられ、
「そちらの彼ですよ。」
「かしこまりました。」
太宰からの指示にちらと目をやって、一瞬剣呑そうに眉を上げてから、
「まあ、多少は磨いたほうがいいんでしょうが、その辺は。」
「うん。別に報告とかも要らないし、好きにいじって。
あと、この人のお仲間もいるようだから。」
「…?!」
日本語も判るのだろう、
彼の頭上で交わされる言葉へギョッとしたのへフフと笑って見せつつ、
『ああ。お仲間は先に送り出してます。ご案じなさるな。』
先は言わずともということか、視線のやり取りで小さく頷き合えば、
何だ何だとギョッとしている青年へ、
次々入ってきた同じような黒服の男たちが肩やら腕やら掴み取り、
それは俊敏、何かしら訓練されているものかという手際のよさで、
瞬く間に連れ出しての退出してしまう。
「…えっと?」
何が何だかと、連れ出された男と変わらないほどに翻弄されてのこと、
きょとんとしているこちらの彼へ、改めてにっこりと今度は胡乱でも胡散臭くもない笑顔を見せて、
「ゴーゴリくんだっけ。お友達も無事だよ。
何も気づかないまま出国させられかけてたけど、
無事に保護したし、何が起きてたかも気づいてない。」
どうやらここへ乱入してあっという間に撤退した人たちの手筈を
そちらへも向かわせてたらしく。
そうと計らってくれんかったなら、能無しと罵ってやるだけだと、
のちにいかにも人の悪そうなお顔をした太宰だったのは余談だが、
「外国に足場をいくつも持ってるとかどうとか、
いかにも古参で顔が広いと思わせていたようだが、
要は身軽なだけで、言ってるほどの機動力もコネクションも無さげだしねぇ。」
逆に目に余るようなことをすれば、それこそ此処の大物から睨まれて身動き取れなくなる。
消息不明になっても誰も案じない立場だって自覚はないのかねと、
品行方正な青年らに見せて、実は彼らのほうがおっかない存在だったらしいと気が付くのは、
その後、ほぼ即座という勢いで問題の連中が一斉に消息を絶ってしまったからだったりし。
「…キミらは。」
「はい?」
朗らかにほわりと笑う弟役の虎の子くんに、何か訊きかけたものの、
腕の中、脇にぎゅむと抱き着く愛らしさへ、苦笑しか出なかったシグマ氏だったりするのである。
to be continued.(26.08.21.〜)
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*裏社会の暗渠には、
ビジネス系も含め、そういうお話もさして読んでないのでよく判らない身です。
うっすらと匂わせたかっただけの浅知恵と、生暖かく見てください。

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